■ 第6日 / 7月16日 ■

この日はフェリーで離島巡り。当初、稚内7時50分発の鴛泊経由香深行きで利尻島は間近で見るだけにしようかと思っていたのですが、北海道入りしてからよくよく調べてみたら、稚内6時30分発の便で鴛泊へ渡り、7時50分に稚内を出た便で香深へ行けば稚内への戻り時間は同じでどちらの島にも上陸が出来る上に、滞在時間もそれぞれ2時間弱取れる事が判ったのでそちらにしました。

駅 名
時 刻
列 車
線区名
稚内FT
06:30発
07便
東日本海フェリー
鴛泊FT
08:10着
10:05発
13便
香深FT
10:45着
13:05発
46便
稚内FT
15:00着
駅前通
15:37発
 
宗谷バス
11系統
ノシャップ
15:48着
16:36発
 
宗谷バス
2系統
駅前通
16:45着
稚内
16:53発
3034D
スーパー宗谷4号
宗谷本線
旭川
20:29着
20:30発
函館本線
札幌
21:50着
さっぽろ
22:50発
 
札幌市営地下鉄
南北線
大通
22:52着

この日はフェリーには3回乗りましたが、JRの列車には「スーパー宗谷4号」にしか乗りませんでした。約5時間も乗っていたので札幌に着いた時にはお腹いっぱいでしたが。

これが稚内の宿、さいはて旅館。奥に見える緑色の庇が付いた建物が稚内駅。その隣が観光案内所で、そこから順にさいはて旅館の本館、ラーメン屋、別館となっています。前夜はやはり寒くて、根室の時と同じく毛布と掛け布団を首まで被って寝ました。

6時台のフェリーに乗るなら6時ちょうどに稚内に着く札幌からの夜行特急「利尻」の客が来る前にターミナルに行った方がいい、「利尻」が着くと乗船待ちの客が何百人も並ぶと宿のおやじさんとおかみさんに散々脅かされたので、6時ちょっと前に出発しました。

フェリーターミナルは結構近くて、10分も歩かない内に着きます。2等乗船券を買って乗船カード(船が沈んだ時にどこそこの何さん行方不明、とか言うのに使うのでしょう)を書いて桟橋に向かうとこれから乗る「プリンス宗谷」がいました。この「プリンス宗谷」は'92年6月に就航した「クイーン宗谷」3,531トンの姉妹船として'95年3月に就航した3,554トンの船で、他数隻の姉妹船と共に稚内から利尻・礼文島への生活と観光の足として活躍しています。

とりあえず前の方が面白いのかな、と思ってブリッジ直下の船室へ。しかし前部甲板に近過ぎてあまり面白くありませんでした。小雨が降っていたので、窓もこんなになっていました。ここは2等船室なのでカーペットが敷いてあるだけのゴロ寝部屋です。

暫くは部屋でTVを見たりしていましたが、退屈してきたし雨も大体止んだようだったので後部甲板に出てみました。するとカモメが2羽、左舷と右舷の後部に止まっていて、まるでこの「プリンス宗谷」を護衛してくれているようでした。記念撮影にも気軽にカメラ目線で応じます。

僕も別の所に止まっていたのをギリギリまで近付いて撮ってみました。オオセグロカモメと言う種類だと思いますが、北海道では人間が出したゴミを糧に大繁殖していて問題になっているそうです。

そうこうしている内に一体どこから来るのか、どんどん数が増えていきます。最終的には20羽以上のカモメが周囲を飛んだり船体に止まったりで、さながらカモメ空母のようになってしまいました。

この「プリンス宗谷」の煙突は写真の左側に見えているように両舷側に別れて配置されていて、後部甲板には真中にマストが立っているだけと広く取られていました。前方に見えているのは1等船室で、その後部の囲いの中は1等の乗客専用の甲板です。

カモメの群れを見ている内に利尻島の鴛泊フェリーターミナルに到着。しかしここの一番の見物である利尻山、通称利尻富士は頭にすっぽり雲を被っています。それでもゆるやかに伸びる稜線が綺麗でした。

ここでの滞在時間は1時間55分となっていますが、とりあえず来ただけで何も決めていません。ウニ丼喰いたいな、程度です。いつもそうなのですが、列車の乗り継ぎやホテルの場所などは綿密に調べ抜いて決め込むくせに、行った先の事は何も決めないまま出発します。観光ガイドもたまに立ち読みする程度で買った事はありません。これが思わぬ良い結果を産む場合もあるのですが、帰って来てからサイト用の文章を書くために調べ物をするとこんなのもあったのか、というパターンが多いです。

フェリーターミナルのすぐ横には漁港があります。そしてその向こうに見えるのはペシ岬。標高は93mと低いですが、頂上へと至る道はここからでも判るように正に馬の背と呼ぶに相応しい険しさです。

とりあえずウニ丼を食べられそうな店を探します。ターミナル付近には何軒か見掛けたのですが、町中の方も見てからという事で鴛泊の町をぶらつきます。坂道の多い町で、こんな風に道が途中で見えなくなる場所も散見されました。

民家の軒先から。こういう風景を見る度に日本列島の広さを感じさせられます。

町中にはそれらしき店はなかったので港へ戻る事にします。でも帰る途中でペシ岬に登ってみたくなり、挑戦する事にしました。看板に従って改装中のペンションの軒先を歩き、山道の入り口から頂上を見るとこんな感じです。

入り口からちょっと入った所で左に分岐があり、そこから10畳間程の広さの開けた場所へ出られるようになっていたので行ってみました。僕は既にこの時点で息も絶え絶えになっています。ここから見る頂上は正に断崖絶壁。何かで削り取られたような山肌にはカモメが沢山住んでいるようでした。

この場所には'80年の11月に埋めた期限50年間のタイムカプセルが埋めてあるようで、当時の東利尻町長の名前入りの石碑がありました。タイムカプセルと言えば、最近僕の小学生時代のが掘り出されて、家族に渡されたその時埋めた紙にはドムが描いてありました。あの時にはタイムカプセルが掘り出される時代になっても未だガンダムが拡大再生産され続けているとは夢にも思いませんでした。

ひいひい言いながら登りつつふと見ると利尻山がほんの一瞬だけ頂上を見せてくれました。大慌てで写真を撮りましたが、本当にうっすらとしか写りませんでした。

造成作業をしている場所があり、どうやってここまで持ち込んだのかよく判らないパワーショベルに乗ったおじさんが観光客らしき女の人とにこやかに話していました。まだこの辺は斜面が緩やかです。

途中、傾斜が急になった辺りから石段があります。しかし、この曲がり角では石段がみんな谷側に向かって斜めになっていて、物凄く怖いです。ここには柵もなく、もし誤って転んだら命も落としかねないと思います。

最後の急斜面です。水平線と見比べると、多分30度近い角度になっています。スキーをやる人ならどんな角度か判ると思います。この辺まで来ると柵を頼りに両手両足を使って1歩づつ慎重に登るしかなくなりました。少し手前に灯台へと続く道が右に分岐していました。

衰え切った心肺機能を無理矢理酷使する事約15分、ようやく頂上に辿り着きました。転落死も含め、本当に死ぬかと思いました。看板のフォントがポップ体なのが小馬鹿にされているようで妙に腹立たしいですが、それでも世界の頂上に立ったような晴れがましい気分になり、今までは信じられないという眼で見ていた登山が趣味の人達の気持ちが少しだけ解ったような気がしました。自分の趣味にする事は絶対にありませんけども。

頂上からの360度の眺望(2.4MB / 35秒間)

稚内で買って飲み切っていなかったポカリスエットを飲み、ようやく息が落ち着いてきました。頂上からは利尻山や港、鴛泊の町が一望出来てとてもいい景色です。コンクリートで出来た四角い何かの台座のような物があったので、その上でぐるっと回転してみました。普通ならQuickTime VRのパノラマムービーを作るのでしょうけど、そんな機材もソフトも技術もないので単なるムービーで御紹介します。

頂上からは灯台も見えました。扉の上にあったプレートによると、この鴛泊灯台は1892年に建設されて'53年に改築されたようです。

ここまで見掛けた鳥はみんなオオセグロカモメだったのですが、この灯台はカラスの縄張りになっているようでした。それでもカモメはここまで来てカラスにちょっかいを出します。当然カラスも飛び立って応戦するのでその様子を暫く見ていたのですが、どうもカラスは飛ぶのが苦手というか、風を捉まえて滑空していても短時間で捉まえ切れなくなって羽ばたかざるを得なくなっていました。それに比べてカモメはいつまでも風を利用して悠々と飛んでいました。

帰りは灯台経由で行く事にしました。そうしたらこちら側は頂上付近は急斜面ではあるものの、そこを抜けると全然平坦な道で、格段に楽そうでした。灯台の所でスイッチバックをしている分、傾斜が緩和されているようです。

写真は降りる途中で擦れ違った女の人2人組。赤い服の人が先に登って行ったのですが、この急斜面を大股で駆け上がって行き、頂上からもう1人に大声で話し掛けたりと体力が余りまくっているようでした。何かスポーツをやっているのだと思います。ベージュの服の人は結構辛そうでした。

港まで降りた時点で出港まで15分とちょっと。食事を摂るには足りないのでヒトデの死骸が累々と転がる堤防の一番先まで行ってみました。その根本では漁師さんが船底に付いた藻や海草をジェット水流で洗い流していました。

のんびり歩いていたのですが、意外に時間が掛かって急いでターミナルへ向かいます。途中で袋小路に入ってしまったりでロスもあり、最後はフェリーに駆け込みました。

またもや息切れしつつ後部甲板に行って自動販売機でガラナを購入。「SL函館大沼号」で買ったのは地元企業らしいコアップというブランドの物でしたが、今度はメジャーなキリン・メッツのガラナ。この250ml缶を始めとして350ml缶、500mlペットボトルも見掛けましたが、これも北海道限定なのでしょう。味はコアップよりかなりマイルド。僕の好みで言うとコアップに軍配が上がります。

今度は出港時から3羽のカラスが止まっていて、カモメの姿は殆どありませんでした。今回はカラス空母になるのかな、と思っていたら↓

いつの間にやらカモメの大群が。なんであそこだけカモメが集中するのだろうと思ってよく見ると、餌をあげているおばさんがいました。カラス達は10分程で1羽づつ島へ戻って行きました。

海から見たペシ岬。やはり凄い断崖です。特に灯台の根本にはオーバーハングすらあります。

暫くすると、左舷側が騒がしくなってきました。何事かと見てみると、おばさんがプリッツをカモメ達にあげていました。カモメ達は音を立てて仲間と空中衝突するのにも構わずおばさんの所に殺到します。何人かのおばさんがこれに挑戦していましたが、その中の不運な人は鋭いクチバシで指ごと噛まれて痛がっていました。

おばさん達のお陰でこんなに近くから飛んでいるカモメの写真が撮れます。少しトリミングしましたが、レンズをワイド端まで引いた状態でもこんな写真になります。ズームすると動きに付いて行けないし、テレ側ではレンズの明るさが落ちるのでシャッタースピードが遅くなってブレてしまうのですが、被写体がここまで近付いてくれると何の心配もなくタイミングだけ合わせれば済むので楽です。

艫の方を見るとこんな状況です。おばさんの所まで飛んで旋回し、艫側から再度アタックを試みます。

群れ飛ぶ大群(2.4MB / 35秒間)

既に3枚も写真を載せていますが、やはりこの迫力はムービーで見て頂くのが一番です。

こんな写真やムービーを撮れたのはおばさん達のお陰ではありますが、野生動物(に限らず犬や猫も含め、動物はみんなですが)に濃い味が付いた物をあげてはいけません。

利尻島の鴛泊から礼文島の香深までは40分で着きます。その間、結局甲板でずっとカモメ達を見て過ごしました。

香深に着いて下船する時に船室を覗いたら、ちょうどメジャーリーグのオールスターゲームの中継をやっていて、1対0でアメリカン・リーグがリードした5回表、今年は異常に成績が良いシアトル・マリナーズの長谷川滋利が4番手としてマウンドに上がり、アトランタ・ブレーブスの強打者ゲイリー・シェフィールドと対峙する所でした。この後長谷川は0回2/3を投げて打者6人に対し被安打3、うち被本塁打1、与四球1、自責点4と血祭りに上げられる事になります。

鴛泊から香深まで乗ったのはこの「ボレアース宗谷」3,580トン。'02年の12月に進水、'03年5月に就航したばかりの新造船です。基本的には「プリンス宗谷」と同形船のようでしたが、船室の構成等細部に色々と違いが見られました。

今度こそウニ丼です。またもターミナル前の店をパスして香深の市街地へ歩きます。これは途中で出会ったゴールデン・レトリバー。奥の名札には「Welcome オオツ リッキー」と書いてあります。写真を撮ろうとするとゆったりと頭をもたげ、ただじっとこちらを見つめていました。

民家の軒先の鉢植えと老婆2人。この道は奥で下り坂になり、その先には海が広がっています。本当はフォーカスを奥に持って行きたかったのですが、抜けて欲しい時には抜けてくれません。

見物も兼ねて店を探し、結構歩いた後に入った店で遂に念願のウニ丼¥3,300。やはり旨かったです。しかしウニを好き過ぎる僕はこの後野寒布岬で神をも畏れぬ暴挙に出る事になります。

で、これは普通のウニ丼なのですが、この店には他にもジャンボやダブル等のウニ丼各種や、ウニラーメン、ウニそば、ウニうどんと言ったかなりきわどいアイディア料理もありました。そしてそれらウニ物の頂点に立つのが丼ウニ¥30,000也。桁を間違っている訳ではなく、さんまんえんです。頼まされそうで怖くて訊けませんでしたが、多分丼にウニのみを盛り付けた物だと推測します。ここにはパックツアーの引率らしき人達も来ていたので、有名な店だったのだと思います。

ウニ丼で満足し、ターミナルの前の喫茶店でコーヒーでも飲もうかと思ったらツアー客の中高年層でぱんぱんになっていました。仕方がないので同じくツアー客でごった返す待合室で船を待ちます。利尻の時とは大違いな時間の使い方ですが、さすがに船まで走ったので懲りました。待合室ではまたオールスターゲームをやっていたので観ていたのですが、12時になった所でニュースが入って中断。12時20分から中継に戻ると言っていましたが、それを待たずに試合が終わってしまったようでした。

程なく稚内からの便として今朝乗った「プリンス宗谷」がやって来ました。この稚内ー利尻(鴛泊、沓型)・礼文(香深)航路には今日乗った2隻の他にも「クイーン宗谷」「フィルイーズ宗谷」と同形船が全部で4隻就航しているのですが、この時期は便数が増やされている事もあってフル回転しているようです。

この便でもやはりカモメ空母と化した「プリンス宗谷」にはこんな妙に豪華な喫煙所があり、他におっさんが2人寝ているだけだったので僕も横になっていたら眠ってしまい、入港直前に目が覚めたら周りに人がいっぱい座っていてびっくりしました。

15時ちょうどに稚内着。タラップを降りたらこんな大行列になっていました。実際はこれだけではなく、この写真の右方向にも行列があり、そのほぼ全てがパックツアーの中高年層でした。胸を張って若いとは言い張れない歳になってしまった僕でもここでは物凄く若い層に入ります。

稚内のフェリーターミナルの近くにはこんな建造物があります。離れた所から見ると↓

こんな形をしています。これは稚内港北防波堤ドームという名前で、'36年に竣工した世界で唯一のドーム型防波堤だそうです。その後波に洗われ続けて補修が必要となり、'80年に現在の形になったという事です。

駅に向かって歩く途中に駐車場を横切ったらこんな物を見ました。ただ単にずっと置きっ放しにしていて草生しただけではありますが、見た瞬間に「もののけ姫」の神様が足をつけた場所に植物が生えるシーンを連想しました。車は'80年代に「街の遊撃手」のキャッチコピーのCMが一世を風靡したいすゞジェミニ。CMが当たった甲斐あって実際にかなり売れたそうです。

駅に近付くと何処からか音楽が聴こえ、通りを警察のマーチングバンドが通過していきました。その後には中学校と高校のバンドも付き従っています。暴力追放キャンペーンの一環としてやっているようでしたが、人の気配が薄い通りをバンドの音だけを残して粛々と進む行列はつげ義春の世界のようなシュールさを漂わせていました。

この一団を見送ってからさいはて旅館の前を通り掛かったら、本館の中におやじさんとおかみさんの姿が見えたのでちょっと立ち寄りました。今朝は出発が早くて誰にも会わずに宿を出てしまったので、無事に離島を回って来ましたと挨拶をしてからすぐ近くのバスターミナルへ。そこでノシャップ行きのバス停は少し離れた通り沿いにある事が判ったので、そこからバスに乗りました。

生活の足として走っている路線バスらしく、小学生やおばあさん達を乗せたり降ろしたりしながら着いたバス停。観光用の路線だともう少し突端の近くにバス停があるのですが、路線バスで来るとここから土産物屋や食堂が居並ぶ道を5分ちょっと歩きます。

ここが野寒布岬。手前には郵便局の屋台(というのも変ですが、実際に屋台としか呼びようがない物でした)が出ていて、職員なのか委託局員なのか、気の毒な人達が2人でまばらな観光客相手に記念切手を売りつつ寒風に吹かれ続けていました。

今回は残念ながら時間が足りなくて最北端である宗谷岬には行けませんでしたが、最東端の納沙布岬とはまた別の最果てを感じました。納沙布岬と野寒布岬は名前が似ていて混同しそうになりますが、調べてみるとどちらも同じ言葉、アイヌ語の「ノッ・シャム」が語源らしく、その意味は「顎が突き出たような所(集落)」「波が砕ける場所」であるそうです。「開拓」という言葉の元に侵略され、攻め滅ぼされてしまいましたが、やはりここは異国なのです。

看板の前で記念撮影する中年夫婦をなめつつ360度回転(2.0MB / 30秒間)

看板とイルカの中間でまたぐるっと回ってみました。中年夫婦の記念撮影と被りましたが、人がいた方が面白いのでそのまま採用です。

ちょっと判り辛いのですが、北海道で数回見掛けた現象。太陽が月に見える程に弱い光で光っていて、周りの雲はギラギラと輝いています。上手く写真に収められませんでしたが、弱い光の太陽が丸ごと見えていた事もありました。どういう原理でこう見えるのか解りませんが、こちらでは普通なのでしょうか。

岬を離れ、バス停までの道中にあるこんな猫だらけの店に入ります。事前の調べによると結構有名らしいです。

そうです。ここで本日2杯目のウニ丼です。礼文島のウニ丼の写真が11時26分、この写真が16時16分に撮られているので、たった4時間50分しか間が開いていません。正に暴虐の限りを尽くしている、といった感じですが、僕のウニ好きパワーはそんな事では止まりません。まあ、ウニを好き過ぎる自分に対して、じゃあ好きなだけ喰ってみろ、後でどうなっても知らないぞ、と突き放したという面もあります。

幾多のメニューの中から頼んだのはその名もウニだけウニ丼。ここでは普通にウニ丼を頼むと他にイクラ、蟹、帆立が乗って¥3,000なのですが、それをウニだけにして2倍の分量を乗せた(+前出の3品から1品サービス)のがこのウニだけウニ丼で¥4,000。でもこの日はサービスで¥3,500になっていました。ごはん大盛も無料だったので頼んでしまいましたが、これは大失敗でした。ちなみに隠れてしまっている右上のお皿はワサビが乗った醤油皿です。

ウニだけウニ丼を待ちつつ札幌行きの「スーパー宗谷4号」に間に合うバスまでの時間を計算します。バスが37分発車、バス停まで少しだけ余裕を見て5分、すると32分には店を出ていないとアウトです。そしてウニ丼が来たのが16分、差し引き16分間でこれを平らげなければなりません。ある程度ギリギリの時間になる事は見通していましたが、ちょっと岬で時間を喰い過ぎたようです。

以上の状況をわきまえ、腹を決めてもりもりと食べ始めます。しかし何も考えずに反射的に頼んでしまった大盛ごはんが我が胃袋を容赦なく拡張していきます。確かに旨い。最高。でも状況が悪すぎます。もっと味わってゆっくり食べたい。口腔が、鼻腔が、食道が、胃がウニの匂いで満たされて行きます。いつもは心地良いはずの匂いがボディブローのようにダメージを与え続けます。それでも半ば無理矢理口にウニ丼を押し込んで行きます。辛い。本当に辛い。ああ、あんなに好きだったはずのウニを喰いながらこんな気持ちになるなんて!

時計が30分を回った頃、ボロボロになりつつもなんとか目標より少し早く完食しました。米粒1つも残していません。しかし、試合に勝って勝負に敗けたとはこの事でしょう。丼に乗っていたウニ達、蟹達他の食材に申し訳ないです。未だ胃から逆流し続けるウニの匂いを嗅ぎつつ、バス停へと急ぎます。

バスの中で客を待っていた初老の運転手さんに駅前通バス停の到着時間を訊ねます。実はこのバスに乗ったからと言って確実に「スーパー宗谷4号」に間に合う訳ではなく、往路で掛かった時間からの類推で割り出した時間を根拠に乗っているだけで、何処かを経由する路線だったりしたらもうアウトです。答えは48分、かなあ、でした。

僕がそんな鬼気迫る表情をしていたのかは知る術もありませんが、バスは気持ち早目の36分に発車し、乗降客が殆どいなかったのも幸いして定時より3分早着の45分に着きました。バス停から駅までは歩いても3分掛からない程度で「スーパー宗谷4号」は53分発なので既にほぼ安全圏内なのですが、コインロッカーで荷物の回収をしないといけない事もあって小走りで駅へと向かいます。駅ではすっかり撮り忘れていた看板の前で記念撮影をしている人達がいました。

よれよれになりつつもなんとか発車5分前にホームまで辿り着けました。鞄に入れる時間が惜しかったので、手にはPowerBook G4を剥き身のまま持っています。今日は急坂を登ったり走ったりでとにかく身体を動かす日です。ちなみにこれは編成の後端で、この視点の背後に国内最北端のレール端があります。

おや、と思ってよく見てみると、今ではめっきり珍しい駅弁を立ち売りしているおじいさんがいました。右側に写っている自動販売機で缶コーヒーを買っていたら、弁当買わないのかな、みたいな眼で顔を覗き込まれてしまいましたが、僕は咽まで大量のウニとごはんが詰まっていて窒息しそうなのです。そんな眼でじいっと見つめられても買えません喰えません。

しかしまあ、このウニ丼2連食は「ウニを好き過ぎる自分を懲らしめる」という裏コンセプト的には完全に大当たりでした。この日から約2週間経ってこの文章を書いているのですが、未だウニを食べたいとすら思わなくなっています。回転寿司を食べに行っても頼みませんでした。

最北端の線路を背に(2.4MB / 35秒間)

稚内発車時にまたお約束になりつつあるムービーを。駅構内を出る所まで入りました。

出発するとすぐに隣の南稚内に停車します。南稚内を出てから隣の抜海までは右の車窓に海が広がります。天気が良い日は利尻山も見えるそうで、宗谷本線の中で特に車窓が良い区間と言われています。

昨日「スーパー宗谷3号」で来た時には真っ暗闇で何も見えませんでしたが、明るい時に見てみるとこの辺りはなだらかな丘陵と平野が交錯していて、これまで通った土地で見た景色とはかなり異った印象を受けました。

稚内から100Kmにちょっと足りない所に天塩中川という駅があるのですが、そこに停車する10分程前に車掌さんの緊張した声が車内に響きました。

「お客様の中にお医者様か看護婦さんはいらっしゃいませんか、急病人が出ております」

こういう時は本当にこういう事を言うのだな、と妙な感心の仕方をしてしまいましたが、その少し後に車掌さんが同じ事を言いながら車内を小走りで探して回ったり、車内販売のお姉さん(東海道新幹線あたりと違ってJR北海道の車内販売はみんな若かったです)も車掌室へ救急セットや毛布を取りに走ったりと前の方の車両で出たらしき急病人の為に色々と慌ただしくなっていました。

結局天塩中川でその急病人は降ろされ、18時21分発の予定を3分遅れで発車しました。この写真は天塩中川のホームの花壇。この先に担架で運び出されたらしい眼鏡をかけた中年の男の人がホームに寝かされて目を閉じていて、その周囲では5〜6人の駅員さん達が心配そうに顔を覗き込んでいました。

暫く後に、車内販売でアイスクリームを買いつつその後を訊いてみると、天塩中川の駅に医療関係者を呼んだので大丈夫です、とにこやかに、しかし幾重にも疑問が残る答を返されました。

昨日と同じく、19時35分着の名寄の辺りで外は完全に暗くなりました。名寄では昨日乗った「スーパー宗谷3号」と擦れ違います。要するに、昨日は名寄より南側、今日は名寄より北側の車窓を楽しむ事が出来ました。偶然でしたが、知らない線には極力日がある内に乗る、という原則は守れました。

写真は20時3分発の和寒。結構好きな駅名です。天塩中川で生じた3分間の遅れは、この辺りでは完全に取り戻されていました。

21時50分、定刻に札幌着。左に見えるのがここまで乗った「スーパー宗谷4号」です。

列車を降りて電光表示板を見ると、22時ちょうどに出発する202レ「はまなす」がいるようだったので見に行きました。この「はまなす」は青森ー札幌間を結ぶ夜行客車急行で、現存する客車急行は東京ー大阪間を走っている「銀河」とこれだけ、その中で座席車を連結しているのはこの列車のみになっています。機関車は函館まではこの「北斗星」カラーのDD51(「北斗星」他の特急と違い、こちらは1両で牽引します)、その先は終点の青森までED79、客車は14系の座席車と寝台車の混結です。「銀河」と違ってヘッドマークが付いているのが良いです。

この日の宿は函館と同じく東横イン。去年の7月に来た時と全く変わってしまった札幌駅に驚きつつ探しましたが、凄く駅に近いのにメインではない方の出口側なので見付けるのに少し手間取りました。

チェックインして、室蘭を出て以来出来ていなかったメールチェックその他を済ませて出掛けます。この時間ならまだ市電の最終に乗れるので、まずは地下鉄南北線の大通駅へと行く必要があります。が、ホテルがあるのはさっぽろ駅(地下鉄は平仮名表記)の東豊線側。平行する南北線のホームまでは延々と240mもの地下道を歩かなくてはなりませんでした。その地下道を南北線側から見たのがこの写真です。

さっぽろから隣の大通まで乗った南北線は、コンクリートの道床の上をゴムタイヤを履いた車両がガイドラインに沿って走るという特殊な形式でした。朝の早い時間だとタイヤが暖まるまではブレーキの効きが悪い等、運転する側にも特殊な技量を要求するそうです。乗り心地は震動が柔らかで音も静かでした。東京にもゴムタイヤ付きの鉄道はゆりかもめや東京モノレール等いくつかありますが、そのどれにも似ていない不思議な感じでした。その内ゆっくり乗ってみたい車両です。

大通の駅から市電の始発駅、西4丁目まではまた少し歩きました。これがその線路端です。

暫く待つと、最終電車がやって来ました。しかし終点のすすきの行きではなく、途中の電車庫に近い中央図書館前行きでした。本来なら市電ですすきのまで行ってそのまま呑みに行くつもりだったのですが、ちょっとホテルでゆっくりし過ぎたようです。これに乗っても後が難しいし、どうせなら明るい時に完乗したいので次の機会に延期する事にして、すすきのまで歩きました。

すすきのの街は相変わらずでした。ここには去年仕事で来た時に連れて来られた美味しい炉端焼きの店があるので、朧げな記憶を頼りに探します。探しつつも良さそうな店があったら入るつもりで歩き回りますが、なかなか目的の店も良さそうな店も見付かりません。どこの繁華街でもそうですが、客引きだけはいくらでもいます。迷い込んだ妙な雰囲気の雑居ビルで風俗系の女の子に出合い頭にマリリンですか〜とチラシを出されたりしつつ探し続け、ラーメン横丁の奥のどう見ても従業員用の通路を抜けた先に目当ての店はありました。

ようやくカウンターに腰を下ろし、ここでもまた食べている紅トロルイベ他をつつきながらジョッキを傾けていると、船の揺れが蘇って来ました。考えてみると僕は船の揺れをかなり引きずる体質で、高校の修学旅行で天安門事件1年前の中国に行った時も、神戸から上海まで46時間も乗った船の揺れが1週間後に羽田に帰って来るまで続きました。東京湾納涼船の仕事の時にはなかったので克服したと思っていましたが、そうではなかったようです。

急げば地下鉄の終電に間に合いそうでしたが、近いからいいやと終電後まで呑んでタクシーでホテルに戻りました。運転手さんに旅行で北海道をぐるっと回って来たのだけど、室蘭は凄い事になってますねと話したら、ああ、あそこはねえ、鉄冷えだけじゃなくてねえ、と言っていました。

部屋に戻る前に近くのコンビニで見つけたのがこのFriskのライムミント味。北海道限定と書いてありましたが、去年の6月に外資系製薬会社の仕事で香港に行ったらこれがあって、散々買いまくりました。他の味と違ってあまりミントがキツくなく、適度な甘味も相まって非常に美味しいのです。なので、再会を祝して4つ買いました。

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